
ここにある光
蝸牛あや
彫刻的な造形感覚をもとに、刺繍を立体的、時間的な表現へと展開する作家・蝸牛あやの個展を開催。見えた光を絹糸で記すことで、世界の美しさを伝え続ける珠玉の新作10点を展示します。
この度メグミオギタギャラリーでは、蝸牛あや個展「ここにある光」を開催いたします。蝸牛は1978年兵庫県に生まれ、2001年に多摩美術大学彫刻科を卒業しました。2011年の初個展「海のむこう 空のなか」以来、刺繍による作品を発表、彫刻的な造形感覚をもとに、刺繍を立体的、時間的な表現へと展開しています。また、日本の染織文化や「祈り」としての手仕事を現代に継承し、糸が刻む時の痕跡を通して「見ること」と「触れること」の境界を探っています。主な展覧会に、高松市美術館「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.09『時どきどき想像』」(2020)、「糸で描く物語」(2021–23, 横須賀美術館ほか巡回)、個展「夜間飛行」(2023, メグミオギタギャラリー)、「超絶技巧、未来へ!」(2023–24, 三井記念美術館ほか全国巡回)などがあります。
蝸牛は大学3年生の時に、古美術研究で訪れた奈良にて、繍仏(仏教的な主題を刺繍で表現したもの)を目にしました。時を同じくして、トルコの小さな博物館を訪れた際に、伝統的で民族的な刺繍に魅了されました。2012年、「繍仏から装飾へー日本美術における刺繍表現の変容と可能性」 (昭和学院短期大学紀要 第49号)という論文にて、飛鳥時代の「天寿国繍帳」を起源とする日本刺繍の歴史を紐解いています。また、自然素材の特性と光学理論に基づき、異なる色の絹糸を並置、鑑賞者が眼で混ぜ合わせることで彩度を高め深度を持たせる、12本で1組になった絹糸を解いて混色することで、見る角度によって印象の揺らぎを生み出すなど、その作品には刺繍の枠を超えた現代的な試みが見られます。蝸牛は訪れた街や遺跡、偶然見つけた石や貝、落ち葉などの身近なモチーフの中に、刺繍という思いの往来を重ねることで、かけがえのない意味や価値を付与しています。蝸牛は実物に沿って制作を始め、詩や小説を拠り所としながら、想像して見えたものを作品に取り込んでいきます。「途上の作品」、「1針1針が迷いと決断の連続」と語る中、知性と感性の明かりを携え、信じる世界に向かって少しずつ歩みを進める作家の姿がそこに立ち現れてくるようです。
本展では、貝殻の内側に見た人体を、光に祝福された人の体として制作した「光の人」、軽やかな羽枝の動きを丹念に表現した「羽根」、砂の中の微化石から着想を得た「泉」など、珠玉の新作10点を展示します。弊廊では2年半ぶりの開催となる、蝸牛あやの個展にご期待ください。
光
私が通っていた美術科の高校にはデッサン室があった。
高い天井、あちこちに置いてある石膏像、壁一面の窓。
その部屋では電気がつけられることはなく、
自然光のなかで石膏像には数え切れないトーンがあった。
日の短い冬の日は、朝早い電車に乗って学校へ向かった。
今でも、早朝の電車から見た海の限りなく優しいきらめきを思い出す。
娘が生まれ、好きなことをして生きていってほしいと思った。
私はそうではなかったから、つくることをはじめた。
ゆっくりでも長く続けようと思い、アーティスト名を蝸牛とした。
朝の静かな光のなか、布に針が刺さる音だけがあった。
子どもと暮らし一緒に遊ぶなかで、
私はそれまで知らなかったまなざしで世界を見るようになった。
夜明け前の早起き鳥のさえずり。
息をするのを忘れて眺める、刻一刻と変化する朝焼けの色。
抜け落ちた鳥の羽根に見る光の帯。
小さな石の持つ長い長い物語。
落ち葉の国の住人たち。
貝殻の神秘の螺旋。
雪の結晶の立体。
数え切れない色。
とても真似のできない形。
それらは私を行ったことのない場所へ誘う。
絹の糸は艶やかに輝く。
私はその糸を使って、とらえた光を記す。
その一粒一粒が、見たことのない形をつくっていく。
—蝸牛あや
Dates
2026年6月12日(金)–7月4日(土)
12:00-18:00
日曜・月曜 休廊
オープニングレセプション
6月12日(金) 18:00–20:00
メグミオギタギャラリー
〒104-0061 東京都中央区銀座8-14-9 デュープレックス銀座タワー8/14 B1
03-3248-3405
info@megumiogita.com

光の人
2026
53 x 33.3 cm
Silk embroidery on silk cloth
Photo by Masashi Kuma
羽根
2026
27.5 x 22 cm
Silk embroidery on silk cloth, gold thread
Photo by Masashi Kuma


泉
2026
22 x 27.5 cm
Silk embroidery on silk cloth
Photo by Masashi Kuma