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​蝸牛あや

夜間飛行

私はこれまで、刺繍を用いた美術表現の可能性を模索してきました。その過程は、暗闇の中を飛びながら、わずかにまたたく光をひとつ、またひとつと集めていく飛行の旅のようでした。 - 蝸牛あや

 

この度メグミオギタギャラリーでは、蝸牛あや個展「夜間飛行」を開催いたします。蝸牛は2001年に多摩美術大学彫刻科を卒業し、以後刺繍作品の制作、発表を続けています。蝸牛はとかく工芸品として見られがちな刺繍の中に、作品性を持たせるような独自の表現を長らく模索してきました。そして近年では、高松市美術館や横須賀美術館での作品展示、また2023年より巡回展「超絶技巧、未来へ !明治工芸とそのDNA」(東京の三井記念美術館にて開催、11月26日まで)への出品を経て、現代刺繍作家の地位を全国的なものとしています。

古来より刺繍は、家族をはじめとする共同体、あるいは個人に対する魔よけやお守りなど、「祈り」の象徴として受け継がれてきました。日本においては、飛鳥時代に聖徳太子の死を悼んで制作された「天寿国繍帳」(622年)が最古の遺品として知られています。洞窟壁画や装飾古墳に見られるように、描くことや装飾は自然と共に生きるために必要な祈りだったのです。しかし大量生産の時代に入り、純粋な祈りを形にするための手段としての刺繍は姿を変えました。蝸牛は、刺繍のはじまりである祈りの行為に立ち返り、願いを込めて作品を一針一針縫いとめることにより、現代にあるべきものを私たちに問いかけます。

蝸牛は大学3年生の時に、古美術研究で訪れた奈良と京都にて、繍仏(仏教的な主題を刺繍で表現したもの)を目にしました。時を同じくして、旅行先で訪れたトルコの小さな博物館にて、民族的で伝統的な刺繍に魅了され、その足で針と糸を買い、自身のバックパックに施したカタツムリは、蝸牛の最初の刺繍作品、また作家名の由来となりました。蝸牛は訪れた街や遺跡、見つけた石や貝、落ち葉などから着想を得て、長い年月をかけて形作られるものと、多くの時間を要する刺繍の制作に自身の思いを重ねています。そして詩的な想像力や感性を培いながら、日本に連綿と続く、自然から学ぶ精神を作品に具現化しています。

 

今展では刺繍の新たな表現的挑戦として、生地の柔らかさ、弱さも魅力として見せることを意図し真鍮枠に張った作品、また「自刻像」や「光を吸って」のように裏が透けて見える作品など、蝸牛の創作活動の集大成となる23点を展示いたします。考古学的ロマンに満ちた、静謐で深淵な世界をご堪能ください。

Dates

2023年9月22(金) - 10月7日(土)

12:00 - 18:00

日・月・9月23日(土) 休廊

メグミオギタギャラリー

〒104-0061
東京都中央区銀座2-16-12 銀座大塚ビルB1

*新型コロナウイルス感染症対策のため、混雑

時にご入場をお待ち頂く場合がございます。

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錬金術師

2023

42 x 31 x 1.5 cm

Silk embroidery on dyed silk cloth, brass (framed)

Photo: Masashi Kuma

作品に用いている生地や糸は、石や金属、木、紙など様々な素材の中で、最も柔らかい。糸が生地の表裏を行き来して形を作りだす刺繍。その弱さや特性を見せる形に挑戦しました。落ち葉のはらりとした様子が生地の軽やかさと重なり、見つけた時にタイトルが浮かんだものを作品にしました。子ども時代、本に夢中でした。特に海外児童文学が好きでした。私の発想の源は、その頃に想像の世界で出会ったものや風景にあるように思います。

王国

2023

27.5 × 22 × 2 cm

Silk embroidery on dyed silk cloth

Photo: Masashi Kuma

一部が欠け、波に削られた貝殻をずっと見ていると、鳥が翼の内側を羽繕いしている時の形みたいだなと思いました。階段状になっている部分は、古代遺跡のようで、苔むした崖の部分はスミレが咲いています。他の作品もそうですが、この作品は特に、自分の目で見て感じることを信じていたい、いてほしい、という願いのようなものでできています。

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星々

2023

22 × 27.5 × 2 cm

Silk embroidery on silk cloth

Photo: Masashi Kuma

 

石の粒は、小さな星のかけらみたいで、全体の形は宇宙の惑星のよう。そう思って見ていると、美しいものすべて星のかけらに見えてきます。

2023

13.6 × 17 × 2 cm

Silk embroidery on silk cloth

Photo: Masashi Kuma

 

内側から水が湧き出ているような色と模様の石。その澄んだ存在感を形にしたいと制作しました。リアルに表すのではなく、そのものが持つ物語を引き出すことができたらいいなと思っています。

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自刻像

2023

17.5 × 14 × 1.5 cm

Silk embroidery on hemp cloth

Photo: Masashi Kuma

 

具象的な形を作る時とは違って、ドローイングのように軽やかで、すベてが表れる形のように思います。裏に渡る糸も見ながら縫うことは、表裏一体のものを作っている感覚で新しい体験でした。軽やか過ぎるんじゃないかと躊躇する思いもありましたが、今作る必要があるという気持ちを優先しました。

羽根

2023

13 × 9.5 × 2 cm

Silk embroidery on silk cloth

Photo: Masashi Kuma

 

これまで制作した羽根は、上向きに置いていましたが、本来羽根が生えている方向に置いてみたら、形に動きがあることに気付きました。光の反射を捉えることも面白く、どんな光の空を飛んだのだろうと想像がふくらみました。

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刺繍―祈りについて

私は、刺繍が持つ「願いを込める」、「縫い留める」という力を借りて、現代に生きる人と共にある作品を作ることを探求してきました。まだ途上ですが、それは観る人の心に響き、共に考える力を持ったものです。制作を続けるなかで、気付いたことがあります。「祈る」ということは、あることについて思いを巡らせ、想像する時間のことなんだな、ということです。それを形にしたものや、その先にある景色を見たいと思って制作しています。

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