
アントニオ・サウラ
ゲイリー・ベースマン
地下からの衝動
不穏な情景の中に象徴的な生き物を描く画家、アントニオ・サウラとゲイリー・ベースマンの二人展を開催。愛に飢えた獣や吸血鬼、強欲な権力者…ホラーの化身たちは、恐ろしい風貌とは裏腹に、私たちの不安や罪悪感を背負ってくれるような慈悲も感じさせます。
この度メグミオギタギャラリーでは、アントニオ・サウラ、ゲイリー・ベースマンの二人展「地下からの衝動」を開催いたします。物語における怪物は、因縁、恋慕、執着などを形象化して描かれるため、禍々しい存在に留まらず、時に私たち以上に切実な感情を持ち合わせることがあります。かく言う人間も善性と背徳心を内包しており、両義的な点で彼らと共通します。本展では、精神世界を具象的に表現し、人間の本質に迫る作品を通して、自己の認識と受容を試みます。サウラは著しく歪んだ肖像画により、社会的な立場や役割の裏に隠された邪な好奇心や獣性を暴き、ベースマンは動物のキャラクターを用いて、自他を滅ぼしかねない愛情の渇望という原始性を表象します。その根底には、向き合うことの難しい自己の一部を画面の中で昇華しようとする、作家たちの人類愛が感じられます。また、サウラは対抗的に、ベースマンはアイデンティティや他文化との混交を示すために、文化史や宗教的図像を活用し、人間生来の狂気という複雑な題材を、普遍性や当事者性のある絵画として成立させる手腕を発揮しています。地下からの衝動を覗き込む時、自分の中に隠れている怪物を発見し、案外彼らを憎めない存在に思えるかもしれません。猛暑を少し和らげる、戦慄の展示をお楽しみください。
2026年9月4日(金)–9月11日(金)
12:00–18:00
日曜・月曜 休廊
メグミオギタギャラリー
〒104-0061 東京都中央区銀座8-14-9 デュープレックス銀座タワー8/14 B1
03-3248-3405
info@megumiogita.com

アントニオ・サウラ
Dora Maar Visitada V
1986
70 x 50 cm
Serigraph (framed)
Photo: Yukihiro Sugimori
アントニオ・サウラ(1930–1998)は、スペイン・ウエスカに生まれました。1947年より5年間続く療養生活とともに、独学で絵画と執筆を始めました。当初、法学を学んでいたサウラは、1950年代初頭にマドリードへ移住、画業に専念します。1952年から1955年にかけて2度パリに滞在する中で、シュルレアリスム作家の一員となりますが、その後は塗り重ねた絵具を削り出す技法や、鮮やかな色彩による抽象表現に独自のスタイルを見出します。画面は徐々に具象性を帯び、黒、灰色、茶色を基調とした代表的なシリーズ “Ladies”、“Nudes”、“Self-portraits”、“Shrouds”、“Crucifixions”に発展しました。1983年には肖像画シリーズ、“Dora Maar” または “Dora Maar Visited” に取り掛かりました。また、版画、彫刻、挿絵、舞台デザインなど様々な媒体で作品を発表しました。サウラは、肖像画が歴史的に担ってきた、特定の人物の似姿を描くという役割を放棄し、巨匠たちの肖像画から特異な絵画的要素を抽出、溶解しうごめく顔の奥にある人間の動物性を視覚化しました。社会制度や西洋古典の美の基準化に批判的な眼差しを向け、十字架などの定番化したモチーフを再考察し深く掘り下げる姿勢は、20世紀美術における社会運動の先駆けとなりました。サウラの作品は、ニューヨーク近代美術館、パリのポンピドゥー・センター、マドリードのソフィア王妃芸術センターなどで展示され、国際的な評価を受けています。
ゲイリー・ベースマン
Il Cenacolo
2012
91.7 x 122 cm
Acrylic on canvas (framed)

ゲイリー・ベースマンは、歴史、遺産、そして人間の在り方(特に愛、憧れ、喪失)を探求する学際的な美術家です。「甘く切ない人生の美しさ」を称える独自の図像と幻想的な物語を通じて、彼の作品は大衆文化とファインアートの世界を融合させています。1960年生まれのベースマンは、生活が劇的に変化し、政治や文化が家庭に浸透し始めた時期に、カリフォルニア州ロサンゼルスで育ちました。ベースマンは、日常の観察や体験を、ドローイング、絵画、写真、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、ファッション、玩具デザイン、ソーシャルメディアなど、多岐にわたる表現へと昇華させています。
動物の遠吠えのように発音されるキャラクター「アールー」は、愛らしくもあり、同時に凶暴でもあります。アールーは、2012年にイタリアのミラノで開催されたベースマンの展覧会 “Vicious” で初登場しました。作家の飼い猫から着想を得たアールーは、もっと注目や愛情を求めている時、血を流すほどに激しく振る舞います。猛々しくも愛らしい狼男のようなアールーは、作家の説明によれば、「手に入らない何かや誰かを欲した時に、人間が抱く飢えと衝動」を表しています。