Video: Yukihiro Sugimori
もののかたち
中村ケンゴ
土屋仁応
田中福男
蝸牛あや
岩月ユキノ
山口長男
ティルト
トラヴ
ヘイドナ
2025年4月の移転後最初の展覧会として、物の魅力を引き出す造形力を磨くことで、作品に出会った時の驚きや楽しさを鑑賞者と共有する、国内外の作家を幅広く取り上げます。
この度メグミオギタギャラリーでは、グループ展「もののかたち」を開催します。弊廊は2007年東京に設立以来、伝統的な技法や素材を用いながらも、作品の仕上がりに独自性を感じさせる作家や、グラフィティなど表現の情熱を直接的に伝える作家を紹介してきました。「美術」という言葉のない近世以前の日本にも、突出したこだわりを持つ作品が存在しました。仏像を一例として、日本のものづくりは探究心により豊かな表現へと昇華され、唯一無二の作品世界に結実しました。そこには、概念的な新しさ、あるいは写実的な技巧に留まらず、たとえありふれたモチーフであっても、物の魅力を引き出す造形力を磨くことで、作品に出会った時の驚きや楽しさを鑑賞者と共有したいという思いがありました。
本展では、移転後最初の展覧会として、上記の系譜にある近現代作家を幅広く取り上げます。ひらがなの言葉を絵画的に再構成した中村ケンゴの日本画、伝統技法と革新的な表現が融合した土屋仁応の木彫、繊細で深淵な田中福男のガラス作品、祈りと想像力を紡いだ蝸牛あやの刺繍、日常を至上の美と捉えた岩月ユキノの油彩画、日本抽象絵画の先駆者・山口長男の原始的で土着的な風景画、フランス人グラフィティアーティスト・ティルトによる、都市の無常や混沌を封じ込めた壁画、ロサンゼルスのアーティスト・トラヴによるタイポグラフィ建築絵画、韓国人アーティスト・ヘイドナによる、ペットと過ごす物語をシンプルかつグラフィックに表現した絵画などを展示します。トラヴとヘイドナは、本展が日本初展示となります。
Dates
2025年5月16日(金)-6月21日(土)
12:00-18:00
日曜・月曜 休廊
オープニングレセプション
5月16日(金) 18:00-20:00
メグミオギタギャラリー
新住所:〒104-0061 東京都中央区銀座8-14-9
デュープレックス銀座タワー8/14 B1

中村ケンゴ
Gadji beri bimba
2025
80.3 × 80.3 cm
Mineral pigment, pigment and acrylic on Japanese paper mounted on wood panel (framed)
作品タイトルの“Gadji beri bimba”は、ダダ運動の創始者の一人、フーゴ・バル(Hugo Ball)のナンセンスな音響詩から。彼は1916年にチューリッヒのキャバレー・ヴォルテールでのパフォーマンスのためにこの詩を書いた。不穏な時代にナンセンスな詩で対抗したダダの作家たちに敬意を表して、混迷極まる2025年にこの詩をひらがなにして絵画として描いた。
中村ケンゴは、多摩美術大学・大学院にて日本画を学び、Eメールで使われる顔文字、マンガの吹き出しやキャラクターのシルエットなど、現代社会を表象するモチーフを用いたユニークな絵画を制作してきました。海外での評価の高まりに連れ、2021年にAKIギャラリーにて台湾初個展、また同年には台北の関渡美術館にて開催された「模造風景」展にも出品しました。さらに2024年には、AKIギャラリーにて2回目の個展「中村ケンゴの現代日式絵画」を開催しました。1990年代にポップカルチャーと伝統技法絵画の接続を試みた中村は、近年では東アジアを含めた日本の文化と近代絵画との関係に関心が移ってきており、「ひらがな ぺいんてぃんぐ」シリーズをはじめ、「心文一致」シリーズの「自我曼荼羅」、「○△□」、「モダン・ラヴァーズ」「JAPANS」シリーズなどが、新たな取り組みとして制作されています。
土屋仁応
猫
2025
40 x 22 x 30 cm
Painted camphor wood, borosilicate glass by Fukuo Tanaka
継続的に取り組んでいる、形を簡略化、抽象化する試み。猫そのものというより、猫の「いる感じ」を作品にしたい。

土屋仁応は1977年に生まれ、東京藝術大学で彫刻を専攻、2007年同大学大学院にて保存修復彫刻の博士課程を修了しました。土屋は、大学院にて古い彫刻に数多く触れた経験を基に、伝統的な技法と革新的な表現を用いて挑戦を続けてきました。2025年には富山県美術館にて個展「土屋仁応ー静けさの向こうに」(6月15日まで)が開催されるなど、国内外でますます人気と評価が高まっています。土屋は、木彫の表面から内側の淡い色彩が微かに現れる、独自の彩色方法を確立しています。また、頭の内側から水晶やガラスなどの玉眼を入れる、仏像と同様の制作方法を用いて、神秘的な表情を持った作品を生み出します。土屋は、形のない想念を生 き物の姿を借りて具現化した、象徴的な動物像をモチーフに制作しています。

田中福男
Siosai nostalgic 20250418
2025
Φ4.9 cm
Borosilicate glass, gold, silver
田中福男は、ガラスアートの専門学校を卒業後、透明度の高い耐熱性の理化学ガラスを使って制作してきました。2024年に開催された土屋仁応の個展では、木彫のガラスの玉眼を担当、さらに初めて目以外のガラス部分も制作しました。長年ガラスの研究を続けた田中は、「インサイドアウト」と呼ばれる高度な技法を用いて、繊細な作品を生み出します。試験管状のガラスの外側に、点で打った別のガラスをバーナーで熱し、それが溶けて内側に入っていく過程で様々な模様に変化、全体の成形と同時に小宇宙を創造します。独特の色彩は、色ガラスや気化蒸着させた純金、純銀などの金属を加熱し、化学反応で生まれた色を組み合わせて作られます。その作品は葉脈や雪の結晶など、自然界の法則によって存在する美を彷彿とさせます。
蝸牛あや
鳳凰
2023
100 × 80 × 2.7 cm
Silk embroidery on silk cloth

蝸牛あやは、2001年に多摩美術大学彫刻科を卒業し、以後刺繍作品の制作・発表を続けています。蝸牛は、1400年の歴史を持つ日本刺繍の中に独自の表現を模索、近年では、2023年から2年にわたって開催された美術館の巡回展「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」への出品を経て、刺繍作家の地位を全国的なものとしています。古来より刺繍は、共同体や個人のための魔よけやお守りなど、祈りの象徴として継承されてきました。蝸牛は、刺繍の始まりである祈りの行為に立ち返り、一針一針願いを縫いとめます。そして、訪れた街や遺跡、偶然見つけた石や貝など、長い年月をかけて形作られるものと、多くの時間を要する刺繍の制作に思いを重ね、自然から学ぶ精神を作品に具現化しています。

岩月ユキノ
廊下
2023
53 × 53 cm
Oil on canvas
岩月ユキノは、1998年に金沢美術工芸大学視覚デザイン科を卒業し、以後油彩画を中心に制作、国内での個展の他、2019年には海外で作品が展示されるなど、精力的に活動を続けています。ありふれた日常に魅せられた岩月にとって、光や色、眼前に広がる風景は、生の実感を伴う信頼の対象であり、その観察を徹底することで、生活の中の理想をみずみずしく表現しています。また、柔らかに描かれた対象は、ふと心に留まった日常の一場面を物語に変え、鑑賞者を作品世界に引き込みます。そこには、慌ただしい日々の中で人々が見過ごしてしまうような、ささやかな喜びの再発見があります。また心地よい余韻と共に、何度でも作品を鑑賞したいと思わせるような個性も特徴的です。
山口長男
雪景
1948
24 x 32.7 cm
Oil on canvas (framed)

山口長男(1902-1983)は、現在の韓国ソウル市に生まれ、1921年に上京、翌年東京美術学校西洋画科に入学しました。1927年同校卒業後、帰国中の洋画家・佐 伯祐三に出会い、彼を追って渡仏しました。1931年帰国後二科展に出品、戦後は二科会の会員として1962年まで出品しました。その間、1954年には日本アブストラクト・アート・クラブの会員として第18回アメリカ抽象美術展に出品しました。またヴェネツィア・ビエンナーレ展、グッゲンハイム国際美術展など数多くの国際展にも出品し、日本の抽象絵画の先駆的な作家となりました。多くの洋画家が西洋美術の模倣に終始する当時の日本において、山口は外形の写実性よりも、対象の実体や骨格を捉える有機的な抽象表現を重視し、土着的で原始的とも言える自身の原風景を生涯追求しました。
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ティルト
Sans titre (AG04)
2024
30 x 24 cm
Mixed media on plasterboard
ティルトは、フランス・トゥールーズ出身のグラフィティアーティストです。1980年代にグラフィティムーブメントに出会い、1988年にスケートボードのランプに初めてタグを描きました。ティルトの作品には、都市環境の無常・混沌・身振りの痕跡が力強い色彩と形で描かれ、そのグラフィティの遺産が、かつてのアンダーグラウンドな表現や記憶を呼び起こす機能 を果たしています。ティルトは大きな壁面にスプレーなどで描き、それを分割して個々の作品とすることで、ピースの一部である部分性を強調しています。まるで壁から直接切り取ってきたような、作品の臨場感やスケール感は多くの観客を魅了しています。
トラヴ
Terms and Conditions
2025
91.4 x 91.4 cm
Acrylic on wood panel

トラヴは、ロサンゼルスを拠点に活動する現代作家です。社会規範からの逃避としてグラフィティに惹きつけられ、やがてストリートの活動から壁画へと移行、さらに自身の物語を消費主義やデジタル変革を批判する作品に昇華させてきました。ストリートの文化と正統な美術界の両方を渡り歩いてきたトラヴは、生々しい個人的な歴史から、反抗・回復力・変容といったテーマを探求し、創造性に突き動かされた人生の中に見出した自由を表現しています。またこうした活動の傍ら、大規模な公共作品に携わることで社会に寄与しています。トラヴの「タイポグラフィ建築」は、壁や電車などへの落書きを起源とするグラフィティの文字を、その支持体である建築物と融合させてキャンバスに落とし込む大胆な絵画シリーズであり、創造的で本物であることを重視する彼の哲学を証明しています。

ヘイドナ
Hide and Seen
2025
72.7 x 60.6 cm
Acrylic on canvas
ヘイドナは、1991年ウィスコンシン州生まれの韓国人作家です。韓国でファインアートを学んだ後、ニューヨーク市のスクール・オブ・ビジュアル・アーツを卒業しました。帰国後はクリエイティブ・ディレクター兼グラフィックデザイナーとして働く傍ら、美術家として活動を始めました。これまでに、サムスンやナイキなどのブランドとコラボレーションし、韓国と台湾にて個展を開催、その他多様な展覧会やイベントに参加しています。2匹の飼い犬の、素早い動作やふわふわの質感を表現した作品には、ペットと過ごす日常の喜びが反映されています。ヘイドナの作品は、そのシンプルさ故に鑑賞者を引き込み、次に何が起こるのかを想像させます。緻密でバランスのよい画面構成、躍動する線、数を絞って効果的に使われた色彩、そしてどこかノスタルジックな雰囲気が、手描きの作品ならではの魅力を放っています。